エアグルーヴの分析
エアグルーヴは現代の日本競馬において、大きな影響を与えている牝馬の1頭です。種牡馬の母・祖母として、また流行の牝系として血統表での存在感が年々増しています。今回はそのエアグルーヴを分析し、一口馬主として出資を考えるとき、エアグルーヴの血をどのようにとらえると良いか考えていきたいと思います。
牝馬・牝系分析 注意書き
本分析は自分自身が一口馬主として競走馬に出資しており、自分自身の投資先を選ぶための分析を公開している範囲ですので、種牡馬の活躍を保証するものではございません。最終の判断はご自身にて実施をお願いいたします。また、馬券的な分析をするものではなく、一口馬主として出資をするうえでの分析ですので、馬券を検討する際の情報としては有効なものではありません。ご了承くださいますようお願いいたします。
分析にあたっては、血統評論家の栗山求さん・望田潤さんのブログや書籍をもとに勉強した内容を用いています。お二人のブログは以下のリンクよりご参照ください。
そのほか、参考にしている書籍は以下の通りです。ご興味のある方はぜひご参照ください。
エアグルーヴの戦績・背景
エアグルーヴは1995年にデビューしました。5歳(当時の表記では6歳)まで走り、19戦9勝(うち2着5回、3着3回)という戦績です。G1レースでは1996年オークス(東京-芝2400m)、97年天皇賞秋(東京-芝2000m)を制した名牝です。牡馬優勢だった当時において、天皇賞秋を制するだけでなく、宝塚記念(阪神-芝2200m)を3着、ジャパンカップ(東京-芝2400m)を2着2回、有馬記念(中山-芝2500m)を3着・5着という実績を残しています。また、G2時代の大阪杯(阪神-芝2000m)や札幌記念(札幌-芝2000m)も制しています。2,3歳時にはマイルでも走り、阪神3歳牝馬(現阪神JF、阪神-芝1600m)を2着、チューリップ賞(阪神-芝1600m)の成績を残しています。
初のG1勝利となった1995年のオークスは、母ダイナカールも制しており、母子オークス制覇は42年ぶり2例目のことでした。
エアグルーヴは社台グループが大事に育てた牝系の出身です。社台グループ創業者の吉田善哉氏が独立し、千葉社台牧場を開業したのは1955年。エアグルーヴの3代母パロクサイドは1959年に英国で生まれ5勝した牝馬で、日本に輸入されます。
パロクサイドが日本で産んだ3頭目の馬がエアグルーヴの祖母シャダイフェザーです。シャダイフェザーの父ガーサントは吉田善哉氏が1962年に日本に導入した種牡馬です。ガーサントは導入初年度から活躍馬を多数出し、種牡馬リーディングでは常に上位の成績を残し、社台グループの礎を作っています。
シャダイフェザーの2番仔がエアグルーヴの母ダイナカールです。ダイナカールはオークスを制したG1馬で、父はノーザンテースト。ノーザンテーストもまた、社台グループが導入した種牡馬で、中央競馬11年連続リーディングサイアー、15年連続ブルードメアサイアーに輝いています。
そしてエアグルーヴの父はトニービン。トニービンもまた社台グループが欧州より輸入した種牡馬で、92年のノーザンテースト、93年のリアルシャダイに続いて、94年にリーディングサイアーを獲得しています。なおエアグルーヴの初仔であるアドマイヤグルーヴはサンデーサイレンスであり、それもまた社台グループが導入した大種牡馬です。
このように、エアグルーヴの牝系は英国より3代母パロクサイドが導入されて以降、代々社台グループが導入し、大きな期待を込めている種牡馬の血を受け継ぎ発展してきたことがわかります。日本競馬の進化・発展を実感させるものがあります。
エアグルーヴの血統表
前述の通り、エアグルーヴは父トニービン・母ダイナカール・母父ノーザンテーストという血統をしています。
エアグルーヴの配合のポイントは以下の3点だと考えます。
- Hyperionの血を強く引いており、距離をこなせるスタミナと、追い抜かせない持続力がある。
- Nasrullahの血も強く引いており、スピードと瞬発力がある。
- Hyperion+Nasrullahで大箱の長い直線で素早く加速し長く良い脚を使える。
エアグルーヴの特徴 Hyperionの血を強く引く
エアグルーヴの母父ノーザンテーストはLady Angelaの2×3という強烈なクロスを持っており、Lady AngelaはHyperionの直仔でもあります。Hyperionは小柄ながらも前向きな気性とスタミナに富んだ競走馬で、同じく小柄だったノーザンテーストはHyperionの影響を強く受けた競走馬と考えられます。
これに加えてトニービンの母Severn BridgeがHyperionの2×4を持ちエアグルーヴ3代母パロクサイドもHyperionの血を引くため、Hyperionの血の総量が15%となっています。Hyperionの血は中長距離をこなせるスタミナと、迫られてからも抜かせない粘り強い気性と脚の持続力を産駒に伝えるイメージです。一方、本格化に時間がかかる傾向があり、晩成の血でもあります。
トニービンはHyperionの血を前述の母に加えて父系からも引いており、5×3×5で18.75%持っており、Hyperion要素の強い馬です。トニービンを母父に持つハーツクライは本人・産駒も含めて晩成傾向かつ、前に行けるようになってから粘り勝てるようになったように、この傾向はかなり強いと言えます。
エアグルーヴの特徴 Nasrullahの血を強く引く
トニービンはNasrullah系の種牡馬です。Grey Sovereignを4代父に持ちますが、Grey SovereignはZeddaanの系統以外ではフォルティノを出しており、フォルティノからはCaro(Cozzene・シャルードなどの父。Unbridled’s Songの母父)やシービークロス(タマモクロスなどの父)が出ています。
余談ですがZeddaanはホモ芦毛遺伝子を持ち、産駒はすべて芦毛です。トニービンは代を経ているので鹿毛ですが、もし芦毛を受け継ぎ続けていたら今頃日本の競馬は芦毛だらけだったかもしれません。
上記の通り、そもそもトニービンがNasrullah系種牡馬であることに加え、トニービンの母父Hornbeam、エアグルーヴの3代母パロクサイドがNasrullah系の父Never Say Dieを持つことで、エアグルーヴはNasrullahの5×6×5を持ちます。Nasrullahはスピードと柔らかさのある血です。
エアグルーヴの特徴 Hyperion+Nasrullahで大箱適性を持つ
そもそもトニービンが前述の通りHyperionとNasrullahの血を強く引く競走馬で、大箱の中長距離戦を得意としていました。晩成の競走馬で、凱旋門賞を制覇したのは引退年の1988年(5歳・旧6歳)でした。これはHyperionとNasrullahの影響を受けてのことだと推測できます。トニービンは世代的にもNorthen Dancer系の影響を受けていないことも、晩成傾向に拍車をかけたのだと考えられます。
トニービンは種牡馬として9頭のG1馬を輩出し、13勝をG1級競走であげていますが、うち11勝が東京競馬場であげたもので、この成績から種牡馬としても大箱で直線の長いコースを得意としていたことがわかります。なお、残りの2勝がベガの桜花賞、ノースフライトのマイルCSですから、阪神・京都の外回りで直線は400mあります。やはり、傾向としては明らかです。
エアグルーヴの場合、トニービンがHyperion+Nasrullahであることに加え、ダイナカールもまたHyperion+Nasrullahであるため、より一層Hyperion+Nasrullah血脈の馬だと言えます。エアグルーヴの場合、両親がHyperion+Nasrullahであるだけでなく、Hornbeam≒パロクサイドのニアリークロスを3×3で持つことでその影響をより強固なものにしていると考えられます。
HornbeamとパロクサイドはHyperionとNasrullah、Bois Roussel≒Boreale(VatoutとPlucky Liegeでの5/8)などが共通するニアリークロスが発生します。このニアリークロスによって、HyperionとNasrullah要素がより強く発揮されているのではないかと考えられます。
エアグルーヴは3歳でオークスを制覇していますが、本格化したのはやはり古馬になってからであり、抜群の成長力を持って牡馬を相手に古馬戦線で活躍しました。また、東京競馬場で5戦3勝2着2回で、2着はピルサドスキー・エルコンドルパサーに負けたジャパンカップのみです。上がり3F最速を9回、2位を4回記録するなど、長く良い脚を持続する能力の高さも伺えます。ただ、中山競馬場と京都内回りでは早い上がりを使えておらず、このあたりからも大箱の直線で能力を発揮できる競走馬であったことがわかります。
母としてのエアグルーヴ
エアグルーヴは母としてエリザベス女王杯(京都外-芝2200m)を2勝したアドマイヤグルーヴ、QE2世カップ(香港-芝2000m)を勝利したルーラーシップを出しています。アドマイヤグルーヴがエリザベス女王杯を制したことで、牝馬3世代でのG1制覇を達成しています。
アドマイヤグルーヴ、ルーラーシップは共にクラシック戦線から活躍をした競走馬ですが、アドマイヤグルーヴはクラシックを終えてのエリザベス女王杯でG1初勝利、ルーラーシップは引退年となった5歳でG1初勝利。いずれも直線距離の長いコースでの勝利で、晩成傾向・長い直線が得意というエアグルーヴの影響を受けていると言えます。
サンデーサイレンス・キングカメハメハともに母系の魅力を引き出すタイプの種牡馬であることを考慮しても、HyperionとNasrullahの血を強く引くエアグルーヴは、その影響を産駒に伝えやすいのだと考えられます。この2頭をピックアップしていますが、その他の産駒にも同様のこということができると考えられます。
また、エアグルーヴの持つHyperion要素・Nasrullah要素を刺激する血を配合相手に持つと、世代を超えてエアグルーヴらしさを引き出すことにつながると考えられます。血統表にエアグルーヴの名前を見かけたときは、HyperionやNasrullahの血脈も同時に探ると【大箱王道路線タイプ】かどうかを見極めることができるのではないかと思います。
前述のアドマイヤグルーヴの子であり、エアグルーヴの孫ドゥラメンテは、父キングカメハメハをつけており、HyperionとNasrullahを同時に刺激しています。牡馬2冠を達成するなど早期からの活躍を見せた競走馬ですが、故障で早期に引退しており、古馬になってからの活躍を見ることはできませんでした。ドゥラメンテもまた本格化はまだ先だった可能性があり、底知れぬ力を秘めていたと私は考えています。小回りながら勝利した皐月賞は大外から内に突っ込みながら大箱の直線を走るみたいな競馬をしています。日本ダービーは適性通りに勝利しています。
まとめ
エアグルーヴの血はHyperion・Nasrullahの要素を強く引いており、大箱での適性が高いと考えられます。また、それらの血を強く引いていることから、呼応する血を継ぎ足すと血統表の遠くにその名があっても、その要素が引き出される可能性が高いと考えられます。
一方でこの血は晩成傾向になる要素もあり、クラシックでの活躍を期待する場合は、Danzig系を始めとしたNorthen Dancer系の血や、北米のスピード&パワー血統を見ていくと良いのだと思います。
一口馬主としてエアグルーヴの血を持つ父や繁殖を考える場合、以下に注目すると良いのではないでしょうか。
エアグルーヴの分析はここまでですが、今後ルーラーシップとドゥラメンテについて別途分析しています。
引き続きよろしくお願いいたします。